事業承継で社長が他人である役員に株を贈与する場合の取扱いの概要

ビジネス

通常であれば株式を贈与すると受贈者に贈与税がかかる。しかし、事業承継税制に沿った贈与であれば、贈与税の納税が猶予されることとなる。

この制度は以前からあったが、条件が厳しかったため利用する人が極めて少なかった。

平成30年度改正で抜本的な見直しがなされ、条件が緩和されたため、今後、この取扱いを受ける人が多くなると思われる。

この制度は、平成30年から10年間の特例措置である。今後5年以内(平成35年3月31日まで)に特例承継計画を策定し、都道府県に認定申請し認定を受ける必要がある。この場合、認定支援機関が所見を記載することとされている。そして、10年以内(平成39年12月31日まで)に贈与を行う必要がある。

贈与税を申告する際、認定書の写しを添付することとされている。

この制度の適用を受けるための会社の主な要件

次の会社のいずれにも該当しないこと
  1. 上場会社
  2. 中小企業者に該当しない会社
  3. 風俗営業会社
  4. 資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く)
この制度の適用を受けるためには、いくつかの条件をクリアーする必要がある。次の事例の場合の取扱いの概要を以下に述べる。
贈与者が代表取締役で筆頭株主、受贈者(承継者)が他人である役員A氏の場合
  〈A氏の条件〉
  1. 20歳以上であること
  2. 贈与の日までに、3年以上役員になっていること
  3. 贈与のときから5ヶ月を経過する日において代表権を有していること
  4. 贈与のときにおいて筆頭株主であること
  5. 雇用要件     承継後5年平均の従業員雇用割合が8割を維持すること(維持できなかった場合は、その理由を認定支援機関が確認。その理由が経営状況の悪化である場合等には、認定支援機関から指導助言を受ける。)。
  • 贈与税の申告時に担保を提供すること。担保は当該株式でもよい。
  • 申告後5年以内は、毎年、都道府県に「年次報告書」、税務署に「継続届出書」を提出することが必要。
  • 5年経過後は、3年ごとに、税務署に「継続届出書」を提出することが必要。
猶予された税金はどうなるか
  • 後継者(受贈者)が死亡した場合は免除される。
  • 経営承継期間の経過後において、会社について破産手続開始の決定又は特別清算開始の命令があった場合は免除される。
  • 経営承継期間の経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において、会社について、譲渡・解散した場合は、その対価の額を基に税額を再計算し、その差額が免除される。
次のようになったときは、納税猶予額と利子税を納付しなければならない
  • 特例期間内(原則として5年)に後継者が代表権を有しないこととなった場合
  • 特例期間内に後継者の有する議決権数が50%以下になった場合
  • 特例期間内に後継者が筆頭株主でなくなった場合
  • 特例期間内に後継者が株式の一部または全部を譲渡した場合(環境に変化があった場合を除く)   特例期間経過後に譲渡等した場合は、猶予税額のうち譲渡等した部分に対応する税額と利子税を納付することとなる。
  • 会社が解散した場合(環境に変化があった場合を除く)
  • 会社が資産管理会社に該当することとなった場合
  • 会社の事業年度の総収入がゼロとなった場合
  • 特例期間内に会社の株式が非上場株式等に該当しなくなった場合
経営環境の変化による免除
経営環境を示す下記の一定の要件を満たす場合(解散の場合は5を除く)において、特例承継期間後に株式を譲渡するとき、合併により消滅するとき、会社が解散するとき等に猶予税額が免除される。
(要件)
  1. 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、会社が赤字である場合
  2. 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、会社の売上高がその年の前年の売上高に比し減少している場合
  3. 直前の事業年度終了の日における会社の有利子負債の額が、その日の属する事業年度の売上高の6ヶ月分に相当する額以上である場合
  4. 会社の事業が属する業種に係る上場会社の株価(直前の事業年度終了の日以前1年間の平均)が、その前1年間の平均より下落している場合
  5.  後継者が会社における経営を継続しない特段の理由があるとき