個人事業者の建物の修繕費と保険金の取り扱い

修繕費

個人事業者の事業用建物が地震で被災し、地震保険金が下りた場合に修繕費を必要経費に算入するときは、保険金を控除しなければならないのだろうか。これが疑問だった。

この話を進める前に理解しておくことがある。それは、事業用建物が被災した場合、その損失を修繕費とは別に資産損失として必要経費に計上するのかどうかである。

これについては、所得税法51条(資産損失の必要経費算入)において明確にされており、修繕費とは別に資産損失の額を必要経費に算入することとされている。その金額の算出方法は、被災直前の帳簿価額から被災直後の時価を差し引いた金額とされるが、り災証明書記載の「り災程度の割合」により計算することも認められている。

つまり、被災直前の簿価に「全壊」の場合100%、「半壊」の場合50%、「一部損壊」の場合5% の割合を乗じて損失の額を算出するのである。これは被災直後の時価の算出が極めて難しいため設けられたものではないだろうか。

この損失を計上する場合には保険金を控除する旨同法で規定されているから、資産損失の額に比し保険金額が同額か多い場合は必要経費算入額はゼロとなる。

次に原状回復のため修繕を行った場合、その修繕費についてはどのように取り扱われるのだろうか。所得税法においては、先入れ先出し法的に、まず、資産損失を必要経費に計上することとされているので、その修繕費(資本的支出部分を除く。)のうち資産損失に相当する部分の金額は資本的支出とされる。従って、その残額が修繕費として取り扱われるのである(所基通51-3)。

この場合、受け取った保険金が資産損失相当額より多かったときは、この多い部分は修繕費に対しどう取り扱われるのであろうか。

これは、所得税法37条(必要経費)において必要経費を計上する場合、保険金を控除する定めになっていないことから、保険金を控除する必要はないのである。他方、保険金は非課税のため収入に計上する必要はない。

今回、このような処理をする事案に遭遇したが、先の道理が分からず右往左往した。法令通達を見てもよく理解できず、解説書を探るも適切に解説したものには出会わなかった。また、各種税務相談所に問い合わせたものの、適切な回答には巡り会えなかったのである。

しかし、ごく少数ながら修繕費から控除する必要はないとする説もあるにはあったが、私はそれには慎重な態度をとった。それは納税者にとって有利だったことと何より少数意見であったからである。

いずれにしても、法令がどのように規定しているかであった。私は保険金を控除する必要はないとするその論拠を深く探り、法令通達を再度検討してみた。そうすると、前述のような理解に辿り着いたのである。

このような経緯からして、修繕費から保険金を控除して必要経費を計上して申告しているケースは少なくないような気がしてならない。

平成28年の熊本地震はマグニチュード7.3、被害件数は、全壊6,990、半壊20,219、一部損壊85,635、合計112,844とされている。これに対し、地震保険金の支払総額は3,773億円である。単純に被害件数で除してみると、1件当たり3,343,553円の保険金が支払われていることになる。地震保険をかけていなかった人が相当数いたと思われるから、その金額はもっと多くなると思われる。

また、事業用建物に地震保険をかけていた人がどのくらいいるのかは分らないが、全体で10万人を超える人が被災していたのであるから、その数は少なくないであろう。

平成28年分所得税確定申告は、平成29年3月15日をもって一応終了したところであるけれども、もし、誤りがあり税額が少なくなるのであれば、更正請求という道がある。

修繕費と保険金の取り扱いについて振り返り、もう一度見直ししてみる必要もあるのではないかと思うのである。