ケイタイのない世界

道路しまった、ケイタイ忘れた・・・。車で出かけたその直後、運転中に気づいた。事務所に手帳とともに置き忘れてきてしまったのだ。ハンズフリーにしているため、車内でも電話は架けられるし、電話に出ることもできる。事務所を出て15分くらい経った頃、さて電話を架けようかとしたときに、忘れてきたことに気が付いたのである。取りに帰ることも考えたが、片道2時間半の遠隔地のお客様のところに出かけるところで、訪問時間を約束していたため取りに帰れば30分ロスすることになり、約束時間に間に合わない恐れがあるということで、取りに帰るのをやめたのである。

やめた途端、今日一日6時間余り外部と連絡が取れないことになることに気づき、愕然とした。こちらから連絡しないことは自分でも諦めがつくが、予測しないところから架かってきたものに出ることができないことが、なんとも気持ち悪く感じられたのである。

今まで外界と繋がっていてオンであったものが、突然オフになったようなものなのである。車の中で閉ざされた環境にいただけに強くその感を懐いたのである。次第に不安な感じが募ってきた。厭な気持である。

しかし、少し時間が経った。気持ちが落ち着いてきた。そうしたらオフはオフで良いではないか。それはそれで外界と隔絶されたところでゆっくりできるではないかと、そう思えるようになってきたのである。そうだ、そう思えばよいのだ。気持ちが切り替わった。車内のオーデイオはテレビからCDに切り替えた。スローなジャズに身を任せ、深く息を吐いて心を落ちつけたのである。

海辺

ケイタイのない世界に身を置いている。外界との連絡が取れない世界である。ただ、先方に着いたら固定電話をお借りして事務所に連絡をしてみよう、そういうことはできるが、車の中では完全に孤立しているのであった。

ケイタイのない世界では何か不都合なことが起きるのか・・・。経済活動に支障が出るのか・・・。それが心配であったのだが、結果としては殆んど影響がなかった。外界との交信はそれほどないという現実がそこにあったのである。それには若干落胆した。それほどのことだったのかと思ったのである。

ケイタイは便利なものであるけれども、無ければ無いで案外過ごせるではないか。そう思い知らされた一日であった。